国土崩壊 -「土堤原則」の大罪- (4)

新しい時代の国土防災

社会資本に於ける河川、道路、鉄道、防潮堤の統合

 インフラ整備に関わる既存の河川や防潮堤やダムが本来の目的を果たしているか、答えはNOである。既存の構築物の設置位置が正しいか、構造物のキャパシティーが整合しているか、構造物の素材、構造体の応力が対象体に適合しているか、構造物のコントロールが適正に行われているか等、基本的な見直しをする時期にきている。これは全て行政の仕事である。河川であれば、源流と海抜を結んだエレベーションに河底を合わせて造り、水流高を決定してその上層部に生活地盤を造れば浸水の心配は無くなる。むやみに堤防を嵩上げし人間の活動面より流水高が高い位置にある天井川を造るが故に、破堤し浸水被害が後を絶たないのである。この状態を解消しない限り国民が安心して生活をすることはできない。一昔前は、河底を下げることは護岸の構築を含めて難しかったが、今の技術では浚渫前に護岸を築造することは全く問題のない作業である。

 社会資本の主軸として、河川、道路、鉄道が存在するが、それぞれ別々の箇所にあり、所轄機関も異なり、構造もそれぞれ個別に設計されている。自然災害は個別には襲ってこない、それぞれの施設の弱点を突いて被害を与える。それぞれのインフラ施設が受ける被害は多種多様に渡り、その総計の被害総額は半端なものではない。

 この社会資本を造り運用管理しているのは関係官庁であるが、この費用を負担しているのは国民である。道路は道路課、河川は河川課、港湾は港湾課でその役目は違っていて、河川課の人間は難しい等と昔から言われているが、これは役所内の業務仕分けや勢力分野で分かれているのである。災害は役所の仕分け内容に関係なく襲ってくる。この脅威を受け止める為に河川施設、道路施設、鉄道施設等を「合築した施設」にすれば、災害に対して原理的に最強の施設となり、広大な有効土地が捻出される。各施設を一本に集合し、V字部分に河底を掘った土砂を入れ全体を統合しインフラの再構築をすべきである。河川災害から根本的に解放され、費用は激減し、管理上の効率性も大きく上がる。国民の税金は河川課に納めたり、道路課に納めたりしているのではない、国税として国に一括して納税しているのである。防災施設に関しては、強い構造物が求められていると共に、国に一括して管理する部署が必要である。国家の財産であり国民のものである社会資本を充実させることは国の責任であり使命である。それを司る関係官庁には、この繰り返される災害を真摯に受け止め科学的に精査し根本的に既存のインフラを見直さなければならない時が来ている。

建設の五大原則 国民から見た建設の基準

 一般的に建設は幅広く、全てと言っていい程行政が管轄している分野であり、建設許可を受ければランクが付けられ仕事ができる。国が決める公共工事はランクによって指名されるが、その内容は国民が見て、なるほどと納得できる「決め方」は何もなく、工法選定に当たって行政担当者の思惑の入った前例主義で決定されていることが多い。国民の財産を造る公共工事の大切な出発時に公平な「工法選定基準」が無いのは全くおかしいことである。故に政治家や暴力団や利権者、関係する有力者が蜜を吸いに群がるのである。

 そこで筆者はかねてより、国民から見た建設のあるべき姿を五つの要件に集約した「建設の五大原則」を提唱している。①環境性 ②安全性 ③急速性 ④経済性 ⑤文化性の五項目で、これを正五角形として全体のバランスを取ることを原則としている。新しい工法が開発されても、建設の五大原則を遵守していなければ、それは工法として認められない。環境性とは、地球をこれ以上壊してはならないということである。安全性とは、工事に携わっている関係者の安全は勿論のこと、周辺住民の安全も図られて、工法そのものの仕組みが最初から安全なシステムであること。急速性とは、工事は可能な限り早く完工することである、いくら環境が守られていても、金が安くても、時間が掛かればその間に地震や津波に襲われる危険性をいつも内包している。経済性とは、金が掛かり過ぎれば国民の拠出した血税が無駄になる。文化性とは、工法そのものが機械的でシステム的であり、できあがったものが芸術性・文化性に溢れていることを目指している。このバランスが正五角形に保たれていることを指している。

■建設の五大原則

chapter03-3

■五つの要件で客観的に建設工法を評価

chapter03-4

 既存の工法を建設の五大原則に照らし合わせてみると、適合するものは無い。既存工法は役所主導で百年一日の如くやってきているため、こうして整合性の取れた基準に当てはめると、科学的な基準や原理原則に全く整合しない古さが焙り出される。防災構造物は責任構造物であり、最も大切な国民の砦であり国民が蓄積していく財産である。自然界の発する強力な攻撃を「かわす」か「減衰させる」か「受け止める」か、いずれかの能力を備えてなくてはならない。いずれを選ぶにしても大きなエネルギーを相手とするものであり、科学に基いた原理原則に即したものであって実証試験で性能の確証を得なくては目的を全うすることはできない。建設は工事を始める前に、その目的に応じた工法基準に則って工法を選定しなくてはならない、それが「工法選定基準」であり五大原則の順守である。そして出来上がった構造物は芸術性、文化性に溢れた責任構造物でなくてはならない。

思考革命

 自然災害と言われているものは、地球誕生以来繰り返されている、地球自体が自働している自然現象であって、地球が通常の営みを続けているだけである。その現象を地球に住んでいる人間が勝手に「自然災害」だと言っているのである。この現象を何十億年来繰り返し続けながら現在の地形や気象環境等が出来上がっており、今後も自然の営みは続き地球はこの循環を少しずつ変えながら繰り返されていく筈である。

 この自然現象を人間が自由にコントロールすることはできない。故に、自然の営みや自然環境を主軸に置いて、地球上に住む生物や我々人間が安全で安心して暮らせるより良い環境の構築をしなくてはならない。今世紀の地球上の覇者として君臨している我々人類が、その土台となる地球と共存する思考を持つことがまず大前提である。地球自体の持つエネルギーの放出による地殻変動や、地球を取り巻く天体の営みによって地球自体が常に環境を変えている。その内容が人間にとって都合の悪いものを自然災害だと人間が勝手に決めているのである。

 地震、津波、火山噴火等の発生は、場所や時期、規模等の想定が難しく、備えも対応も画一的では受け止められないが、河川は、地球の表面形状に人間が人為的に造作した構造体であって、その目的と役割は最初から解っている。水の性質も分析されて解明されており、広域地図も土地形状も告知されていて過去のデータも揃い、気象観測精度も整い、河川の目的や性能を満たす企画設計材料は十分に整っている。自然の営みを変えることはできないが、それを受け入れる備えは人間の知恵と科学によって解決できる。今存在する河川が災害に見舞われているのは、その施設が科学的原理に合致していないからである。自然が想定外を起こしているのではなく、自然の営みに対して人間側の想定した計画の知恵の甘さと、備えの構造体の脆弱性が原因である。これを司る関係官庁が、「想定外だから仕方がない。」、「非は自然側にあるのだ。」と逃げていてはいつまでも悲劇は続くことになる。人間の知恵は進化し時代も進んでいる、同じ失敗を続けることが人間の一番愚かなことである。同じ災害を繰り返さない為に、「新しい思考」が最重要である。

 自然と人間の共生を前提に、既存の河川が目的と役割を正常に果たしているのか、科学で全面的に見直す時期に来ている。一昔前の時代の考え方や技術によって構築されている既存の構造物は、今の時代には適合しないし、科学的に見ても脆弱で存在価値の薄いものである。行政主導の前例主義はいつ迄も通用しないことを、全国で毎年自然が証明してくれている。この事実を科学的に理解し、全く新しい思考に切り替えることが喫緊の課題である。役所はコストに終始するが一番の高コストは構造物が破壊されることである。堤防の損壊による被害は、多くの犠牲者の上に公共・民間資産の損失を含めた総被害額と精神的窮状を集積すると計り知れない損失になる。構造物は容易に破壊しないことを前提に、防災構造物は壊れない粘る構造体を選定し、それを年々増やしていく「防災構造物の積立貯金」とも言える方法で構築して行き、何年・何十年先には真の責任構造物が完成し、国民の安全安心が守られるのである。重要な責任構造物が原理的に脆弱であることが解っていながら前例主義に則って同じものを造り、肝心な局面で守り切れず崩壊してしまう、このような愚かな行為の繰り返しで国民が安心を得ることはできず、これでは国家が富む筈がない。新しい思考は、既存の構造物を全面的に見直し「建設の五大原則」を順守して科学的で新奇性・発明性に溢れた構造物を構築する「考え方の改革」からはじまるのである。

構造革命

 防災構造物は責任構造物であって、国家を守り国民の安全と生活を守る最も重要な国家の管理する公共施設である。この重要な既存構築物が有事の際に用をなさない。設計の段階で企画構造に間違いがあったり、当初から想定予想の読みが甘かったり、構築物の主材料が不適切であったり、構造自体が脆弱であったりと、既存の構造物の欠陥が構造物の崩壊に繋がっている。こうした根本的な原因で被害が繰り返され、多くの人命が奪われている。構造物を制作した時代の関係者の思考や材料や技術、業界の施工方法等が、その時代の科学技術の結集であったとしても、今の時代では全く通用しない古いものが多く、責任構造物とは言えない現況を注視しなくてはならない。また、役所の土堤原則に始まる前例主義は、同じ幹から株分けした業界の一族が、学生時代から純白の脳を染めて来たコンクリート構造物であり、構造はフーチング形式である。これらの前例主義的考え方を持ったDNAが新しい科学技術や他工法を受け入れず、遠ざけて否定してきた。そして正義感を表に出して、専門家が大きな幹である恩師の技術を踏襲し、戦後の日本を再生し発展を築いた。そして防災構造物も造ってきた。こうしての多くの実績を残してきた防災構造物に間違いなどある筈がないと、頑なに正当性を誇示する。その結果、この度の被害は自然の威力が想定以上だったと、地球自体の営みの責任にしている。防災構造物は全て役所が最終決定して構築し、運用管理している。その大金を掛けて出来上がった責任構造物に自信が持てないから、早め早めに「逃げろ、逃げろ」と国民を誘導している。

 構造革命は、まず行政機関が「思考革命」を起こさないと始動できない。防災構造物を科学で実証・検証して、科学的に実証できる原理原則に即した「材料と構造と工法」を、今の時代の最前線にあるテクノロジーに求めるべきである。

インプラント構造物

 人間の「歯」の使用頻度は高く、使用目的は多種に渡り寿命は非常に長い。歯を食いしばったり固いものを噛んだりする時に、歯に掛かる力は強大なものである。また、モノをくわえて引っ張る力も強く、持続する粘り強さを持っている。歯がこのような優れた性能を持ち維持できるのは、使用目的に適した材質と構造を持っているからである。過酷な使用にも耐えられる構造は、まず一本一本の歯の素材が高強度の象牙質でできていて、硬度と粘り強さを持った「許容構造部材」である。この主要部材を支えて固定しているのが「歯槽骨と歯肉」であり、これが頭蓋骨に繋がり身体全体の骨格で支えている。故に、歯の構造は強靭である。

 防災構造物は、自然の猛威からあらゆるものを守る強靭な構造体でなくてはならない。長大構造物が最も弱点とする形状変形を克服するために、人間の歯の構造を取り入れ、一本一本の杭材に強度と靭性を持たせた「許容構造部材」を使用するのである。この杭材を連続して打ち込んで壁形状を構成する、これが「インプラント構造」である。この杭材連続壁を地球に深く打ち込み「地球と一体化」することによって、杭材の強度に合わせて壁体全体に大きな強度と靭性を持たせることができる。防災構造物の使命である襲い掛かる自然の猛威を受け止め、粘る、頑張る、耐える、の試練を克服して、破壊されない責任構造物としての責任を全うできる構造体なのである。

 「インプラント構造」は、長大構造物であっても既存のフーチング構造のように壁体が連続しておらず、一本一本の杭材が隣り合わせで連続し、壁体を構成している。その杭材の一本一本が自立できる強度を持っている許容構造部材であり、災害によって壁体が受ける大きなモーメントはそれぞれの杭材に分散される。この許容構造部材でできた壁体を「インプラントウォール」と呼んでいる、インプラントウォールが受けた自然界の攻撃力は地球に深く打ち込まれた杭材の支持力によって地球自体の力で受け止めてくれたことになる。既存の壁体は「フーチング構造」で、地球の掌に載っている構造である、地球が少し手を動かすと掌の上に載っている構造物は埃の如く飛んでしまう。それに対してインプラント構造物は、地球の掌に杭を差し込んだ構造である、地球がいくら上下左右に手を動かしても追従して離れない、これが壊れない構造物の「原理の違い」である。躯体部分と基礎部分が一体化した許容構造部材は工場で生産するため品質が一定し、検査基準をクリアした部材として提供できる。また既存工法の最大の弱点である仮設工事を無くすことができ、現場も最小スペースで済み、複数パーティーで同時施工が可能である。特に防災工事で望まれる最短工期での完成と、システム施工による少人数化を実現でき、建設の五大原則に則った防災構造物に適した科学的原理を有する唯一の工法である。

■インプラント構造®
躯体部と基礎部が一体となった「許容構造部材」を油圧による静的荷重で地中に押し込み、地球と一体化し構築される構造物。工場生産される許容構造部材は、一本一本が工業製品として高い剛性と品質を有し、部材の大きさと地盤への貫入深さによって、鉛直方向や水平方向からの外力に対して高い耐力を発揮する。

chapter03-5
chapter03-6

科学的原理に立脚した新しい構造物

 多種多様な自然災害の脅威も、その威力を科学によって分析すれば種々のエネルギーに分類でき、その力を特定することができる。防災構造物は、特定された目的に適合した構造で構築されるべきである。自然が発するエネルギーは、地震波であったり、津波であったり、濁流であったり、土砂の崩落であったりと様々であるが、それらの発するエネルギーを受け止めるのが防災構造物である。防災施設はいつの時代も、実績と最新科学を融合した最新技術で時代を代表する構築物であるべきである。自然災害は昔から繰り返し襲ってきていて決して珍しい現象でも新しいものでもない、それを受け止める人間社会は、年代と共に進化し、科学技術の発達も進んでいる、最近の科学技術の進歩は目を見張るものばかりである。

 それに引き換え国民の命と生活、歴史、財産を守るべき最も重要な国土防災に関する防災構造物は、古人が側近の土を掘って盛り上げた「土堤」をいつまでも神霊化して守っている、全く古い考えのままの現状である。一般人は役人や政治家を尊敬しているが、地球は決してこの人達に尊敬の念は持っていない、「やったことの無いことはやらない、使ったことの無いものは使わない、前例が無いから受け付けない」「堤防は土堤が原則だ」などといつまでも前例主義と権威を振るっても地球には通用しない。地球と対話し自然を守り国民が共生していくことの大切さを人間に示唆してくれているのが、毎年やってくる自然災害である。自然と共生していく手段や知恵は人間に有るが、自然災害の猛威に立ち向かい直接防衛するのは、役人でも政治家でも防災学者でもなく、あくまでも「防災施設」そのものである。

 自然の猛威を食い止める使命を持った責任構造物の本領は、全て科学技術で証明され数値化できるものでなくてはならない。科学技術は秒進分歩であるが故に、時代と共に新しい構造物ができていく、新しい素材が生まれ、新しい機械が造られ、新しい工法が創出され、今まで以上に強靭な新しい構造物が誕生している「建設は日々新たなり」の所以である。その効用をいち早く取り入れて採用し、国民に安全、安心を与えることを行政が先導しなくてはならない。科学に立脚した最良の素材や工法は既に確立されている、一刻も早く全国の河川を土堤から許容構造部材を使った壊れない堤防、科学的原理に立脚した新しい構造物にしなくては絶対に安心は得られない。全国の河川の構造革命を実施しても、毎年の災禍による膨大な金額と国民の不安に換算すれば全く安価な事業である。

工法革命でイノベーション人材の育成

 建設業こそイノベーションを起こし最新の技術を導入し「建設の五大原則」を遵守し、全産業のけん引役を務め、国民の目線で見た「工法革命」を起こさなくてはならない。「革命」とは、ある状態を急激に変革することである、従来の被支配階級から新しい支配者が権力を奪い新しい世界をつくることであって多大なエネルギーを必要とし、国家権力の革命であれば流血が常である。建設業界の既存勢力に立ち向かい革命を起こす者は無いと言っても過言ではなく、今まで革命は起こらず、十年一日の如くとして変わらない旧態建設業界が平然と存在しているのである。

 災害の度に被害を繰り返している所轄の関係官庁は、現状を科学で受け止め、既存の河川や防災構造物の現況を根本的に分解して原理原則に即した新しい形態に組み立て直すことが喫緊である。自然の営みの研究をいくら深めても、想定外だとか、逃げることを前提にしていては、いつまでたっても災害に対する対応でありジャンケンの後出しになってしまう。自然と共存し、知恵と科学をベースとし解決の道を選ばなくてはいつ迄も国民の安全と安心は得られない。

 こうした現況の中で「工法革命」を起こして「新生建設業界」を創設すべきだと数十年来訴え続けてきた。特に阪神淡路大震災後には既存の防波堤、防潮堤、河川堤防は非科学的で脆弱であり災害を受け止める機能を最初から有していないことを指摘し、科学的な整合性を有する新しい構造体である「インプラント構造」を提唱してきた。既存工法は自然災害によって次々と崩壊し、その脆弱性が証明されているのに対して、インプラント構造体は無傷でその使命と責任を果たして実績を積んでいる。この現実を証明してくれているのは、専門学者でも役人でもない、自然界の自働する営みが、その脆弱性と強靭性を実証し、証明してくれているのである。最新の科学に則って開発を進めている防波堤のモデルは、既存の物とは全く異なる発想と構造で、土砂やコンクリートを使わず、高張力の化学繊維の帯を組み合わせた「ネット壁体」を「インプラントシャフト」が地球の反力で支える構造であり、その強靭性が実証されている。

■ 防波堤の概念を変える新素材と新構造を用いた「インプラントバリア」

chapter03-7

 前例主義や固定概念に捉われない新しい発想が、業界にイノベーションを起こし国民を新しい時代へと誘うのである。柔軟で新しい発想が生かせて、新奇性・発明性に富んだ新しい技術で新しい構造体を造る若者を育てないと建設業界は崩壊してしまう。今の建設業界に革命を起こせる「イノベーション人材」の養成が急務である。学校に新しい専門学科を取り入れ、科学に基づく新しい素材と構造を発想し、検証し、実証を以って完成に到達する。今までの固定概念とは無縁の、新しい学科の中で生まれる新奇な構造物と、既存構造物の特徴を分解し解析できる、新しい発明者や研究者を輩出しなくてはならない。

新しい学問の創設

 防災構造物は全て目的を持って構築されている、それが崩壊し集落全体が水没する。今の時代にこのような同じ過ちを繰り返している。この原因は有史以来古人が造った土堤を堤体の基本として守り続けている「土堤ラバー」である行政の前例主義に起因していることは間違いない。なぜこの過ちが毎年繰り返されるのか、どうして学習能力を持たないのか、その原因は今の学校で教えている教育の形態が古いからである。学科名も「土木」が名前の由来で、今では「都市デザイン工学」とか「環境システム工学」とか新しい名前を付けているが、元々土と木を主体とした構造物を検討する学問である。構造物を考える人、計画する人、造る人、監督する人、管理運営する人、この防災構造物に関わる全員が同じ学問の源流に育った人間である。どこの学校に行っても皆同じ土木の教育を受けて育った人達であり、この学問は、その昔まだ誰もが知らなかった新しい物や方法を導入してきた先輩が先生となって下に教え広げたものである。戦後急速に進展したのがコンクリートであり、躯体の主軸を成している。以来、工事と言えば、コンクリートが主体であると言っても過言ではなく、関係者の頭の中に深く入って固まっている。主要素材はコンクリートで、形式は、地球の上に載せるフーチング構造が当たり前に定着した。造形し易く、強度は有りコストは安く、この方法がベストだ、これ以上の方法は他に無いと決めて、ピーク時には年間2億立方メートル近いコンクリートで国土を固めて行った。その頂点に立つコンクリート学者を皆が崇拝し、そこから株分けした子分が指導者となって同じDNAを持つ「コンクリートラバー達」が、役人になり、設計者、施工業者、学者と関係者は皆同じ幹からの株分けとなった。このような単一の教育を受けた一族が完成させた構造物に事故があった場合、俺たちがやっていることはベストだ、先輩もその先輩もやってきた、絶対に間違ってはいないと一族が結束を強め、どうしても科学に照らし合せ原理原則で分析することには手をつけず、毎年同じ災禍に遭いながら想定外へと逃げ込むのである、こうした現況をいくら続けてもこの機構形態は変わらないし、災害は繰り返される。

 そこで喫緊なのは全く新しい学問の創設である。役所も前例も全く関係なく「壊れない構造物」を科学的に原理原則で精査する新しい学問を専門学科として取り入れ追求することである。今までのような古(いにしえ)にできた土堤やコンクリートをいつまでも信じて変えることを悪だと決め付けるのではなく、国民の命の掛かった防災構造物だからこそ、最先端の技術・工法を創出するために、専門高校・専門大学・専門学科を喫緊に創らなくてはならない。一部の大学で防災を取り上げた学科を作っているが、内容は逃げる研究と破堤を遅らせる研究ばかりで、肝心の「壊れない構造体」の構築には程遠い内容である。「壊れない構造物を造る」というテーマが決まれば、学問としての想像性は膨らむばかりである。

■ 津波シミュレータ
インプラント構造物の耐津波性能の高さを科学的に検証するとともに、地震と津波による構造物の被災メカニズムの分析によって、これまでの常識を超える新素材を用いた合理的で高度なインプラント構造物の構築を具体的に提案するために開発した装置

chapter03-8

「津波シミュレータ」による耐波実験
土槽部に実験模型(1/33スケールの防潮堤模型)を設置し、水路内に津波(実物大で波高6~7m、流速10~15m/s)を発生させる。構造による強度の違いは歴然だ。

chapter03-9

液状化の活用論

 地盤の液状化を研究している者は世界的に多い、その中の多くの者が液状化は自然災害の中の悪者だと評価している。そして耐震・免震と言えば液状化をどう克服するかで、それぞれの研究がなされ、権威者と言われる者も多数存在している。国の建築基準法では液状化をすることを前提に色々な制約や計算方法で構造を規制している。地震大国である日本は地震を前提にして全ての構造物の設計基準を決めている、その基準を成す数字を震度7で決めている。公共構造物は勿論、民間の構築物も震度7を基準に設計され構築されている。この基準の決定の裏付けには歴とした根拠が存在していると思うが、震度8や9、10が襲来した時はどうなるであろうかと思う。地震の時期や規模や場所は解らないが、その威力は地震学者を当てにしなくても、過去の事例によって解る。その威力は岩盤を横に引き裂き、縦に割って断層を造る位の威力があって人工的には考えられない物凄い大きなエネルギーである。この無限のエネルギーに対して、壊れない構造物を造ろうと人間が色々な努力をしている。
(※現在震度8以上の階級は存在しないが、ここでは未曽有の大地震を表現するためにあえて使う)

 結論として、この我々人類が基盤としている土台である地球が振動を起こす、この膨大なエネルギーに勝てる人工的な構造があるのか、筆者は、それは無いと断定している。既に建っている建設物の耐震・免震も国が色々と指導して基準を作っているが、自然の自営活動であるエネルギーの放出は、役所の言うことには従ってくれない。役所の基準を完全に順守しなくてはならない日本の許認可に対して、自然側がそれ以上の威力で攻撃してきたらいくら耐震・免震に金を掛けても全滅である。国民は安全に安心して生活するために国の基準に準じて耐震・免震の施工を施し、金を掛けているのに自然側がその基準を守ってくれる約束はない。想定外だったと役所に逃げられたら目も当てられないが、しかしそれは現実である。

 筆者はこう考えている、「地球の威力には人間は絶対に勝てない、耐震・免震とは、国の基準ではなく人間が死なない構造だと結論を先に出している」。自分の住んでいる基盤が大きなエネルギーで振幅する、その上に載る構造物にどんなに手を加えても、それは無駄な抵抗だ。強くすればする程「慣性」が働く。いくら強靭に造っても人間が造った構造物が地震の振幅を止めることはできない。本当に耐震・免震を享受しようとするなら、月から構造物を吊るして、地球と縁を切っておくことだ。こうした絶大な威力を持った地球のメカニズムに反発しても勝てない。そこで筆者は、液状化地盤を特効薬と考えて液状化地盤を有効に活用することを考えて工法化している。

 1964年6月16日発生の新潟地震では昭和大橋がずれ落ちるなど、惨憺たる現状の中で、無傷で残ったビルが存在していることに注目し、調べてみるとビルの建設の時に地下工事のために打ち込んだ鋼矢板をそのまま残置してあったことが判明した。その効果によってビルが無傷で現存しているのである。そのメカニズムを探り、実際に建物の周囲を囲む実験を続け、その後、液状化地盤の特性を研究した結果「拘束地盤免震」と命名し、工法の開発に至った。液状化するというメカニズムは、地震の振幅によって伝搬されるエネルギーを液状化する地盤が受け止め、その振幅を緩衝してくれる、その残骸が液状化した地盤である、故に自然界の耐震・免震の特効薬が液状化なのである。それでは液状化によるマイナス面は何かというと、構造物が①上がる ②下がる ③傾く、の三つである。これを克服するために「構造物を囲む」ことで、この大きなマイナス点を最小限に止めることができることを実証し、今までの実際に起こった地震の結果、その真価が証明できて拘束地盤免震と名付けている。

■ 拘束地盤免震

chapter04-8
chapter04-9

株式会社技研製作所の高知本社新館に設置した拘束地盤免震

 既存の建設物は国の色々な制約を順守して建設しているが一旦地震に見舞われると阪神淡路大震災も新潟地震も東日本大震災でも殆どの構築物がガタガタになって使えない。構造設計をしないで建設をしている構造体は無い、例え民間で有っても役所の許可を受けて建設した建物である。それが地震の後ガタガタに壊れるのは今の設計の計算基準や計算式が現実に合っていないことの証明である。今の建設を支配している行政が前例主義の考え方を持って、今俺たちのやっていることが正しいのだと固定してはいけない。新しい構造、新しい方法は無限にあって、その新しい考え方を取り入れるのが役所の本来の在り方である。地球に抵抗して勝てる筈がない。がんじがらめの強度を持たせても構造体を大型化してもやればやるだけ慣性が働き地球の威力は強く伝播することになる。結果、どんなに丈夫にしてもどこかの弱いところに歪が来て破壊に至る。筆者は液状化地盤の特性を利用して軟弱地盤に構造物を載せて、地球のエネルギーに逆らわず、そのエネルギーに身を任せて一緒に揺れることを前提に全く新しい構想を持ってそれを実用化しようとしている。こうした新しい考え方のできる学問の創設を喫緊に望んでいる。

(一社)全国圧入協会(JPA)

 日本国も近代国家の枠組みを整え1967年8月「公害対策基本法」を公布した。これに同行するように、筆者は建設公害の元凶と言われていた杭打工事を原理から変える無振動・無騒音静荷重圧入引抜機「サイレントパイラー」を発明した。この機械の発明は杭打公害の救世主として一気に全国に普及していった。地球に杭を打込むということは大きなエネルギーを必要とし、杭の頭を叩く打撃式や、打ち込む杭を掴んでその杭に振動を与えて貫入させる振動式の方法、また地球を掘削してその穴に杭を入れる方法があった。いずれにしても大きな力を必要とするため、その杭に与えるエネルギーの根源が公害発生の基を持っていたのである。杉板に5寸釘を打つ、これだけでも無振動・無騒音で打つのは難しい。それを500ミリも1000ミリもある大きな杭材を音も立てず振動も出さず、地球に貫入させるというのは至難の業であり、世界中の関係者が取り組んだが成功には至らなかった。「既に打ち込んだ杭を掴んでその杭の引抜抵抗力を反力として次の杭を打つ」、この新しい原理の着想が生かされて、今までにない新しい杭打機がデビューしたのである。

 この新しい発想は、静荷重を利用しているためエネルギーの根源に公害が無く、反力を地球に求めるために機械の自重を必要としない故、機械が最小でできる等、長所が沢山ある。こうした新しい原理に基づく機械や、それを使った工法を正しく理解し、無公害工法の新しい市場を世界に広めていくことを目的として1979年6月「全国SMP協会」を設立した。今の「全国圧入協会(JPA)」の前身である。それ以来40年に渡り、研鑽に研鑽を重ね2019年8月現在で200社を超える正会員と協賛会員31社、賛助会員4社5団体、特別会員6名を擁する全国組織になっている。年間を通じた行事は、圧入工法普及事業、社会貢献活動、国際圧入学会との連携活動、積算資料編纂、広報事業、教育事業と多彩に活動を続けている。また、会員の技術向上を目的に資格制度を作り取得活動を進め、建設業界の先端を担って工法革命を進めている。こうした協会活動を通して旧態建設業界から新しい新生建設業界への移行に鋭意努力を続けているところである。

■ 「圧入原理」を世界で初めて実用化した無振動・無騒音静荷重杭圧入引抜機「サイレントパイラー®

chapter04-10
chapter04-11

■ 「圧入原理」に基づき仮設レス施工を実現した「GRBシステム®

chapter04-12

■ 従来工法と「GRBシステム」の比較
下記のような河川工事を例にとると、従来工法でははじめに「仮設構台」と呼ばれる作業ステージを構築し、その上に工事用機械を設置し作業を行う必要がある。一方、GRBシステムを用いれば作業スペースは杭上の機械幅まで極小化されるため、仮設工事が不要な「仮設レス施工」を実現できる。これにより工期・工費、CO2排出量を大幅に縮減できる。

chapter04-13

国際圧入学会(IPA)

 我々の文明生活は地球を土台とする「基礎」に支えられている。しかし地下は目視できない想像の領域であり、大切な使命を担いながらも、基礎の理論は係数や経験知を頼りとした推論が殆どであった。一方、「圧入」は、杭に静荷重を加えて地中に押し込む施工工法で、基礎が完成後に構造物を支えている状態と、ほぼ同じ力学的関係が造り出される。こうした優位性を持ちながら学問的な裏付けがなかった。

 そこで「圧入工学」の名の下で、環境・機械・施工・計測・地盤といった圧入に関連する幅広い専門分野の連携を図り、理論と実践を融合させた「実証科学」から真実を究明する目的で、国際学術組織である「国際圧入学会(IPA)」の創設に注力した。それに先駆けて1994年からイギリス、ケンブリッジ大学と共同研究を開始しており、静荷重によってできる杭先端の圧力球根の解明からスタートし、25年間に及び毎年テーマを決めて取り組み多大な成果を上げ、圧入博士も5名輩出している。学会創設に民間が動いては利害が絡む故、成り立たないと、関係者は地盤工学会の中に一つの部として取り入れたら良いという意見もあった。しかしながら、学会とは一般国民の用に供するものでなくては存在価値がない、一つの分野を深求する学会は学者の研究の領域であって一般には役に立たないため、独立した学会を創設して即決で建設業界に役立つ学問にしたかった。環境、機械、施工、計測、地盤など関係する団体と一緒になって、実用化している圧入工法の優位性の裏付けを学問としてキッチリと認定することを目的とした。

 また、学者がいくら研究を続けても、天才学者がいくら理論を打ち立ててもその結論は、「こうなる筈だ、こうであろう」という領域までが限界であり真実には届かない。我々がやっている現場での杭打ちは、この杭はこのような結果が出たと証明をすることができるが、その次の杭も同じ結果が出ると断言することはできない。故に、学問と実証が一体にならなくては、真実は出ないという「趣意書」を世界の関係者に配布し、全員一致で賛同を得た。学者がいくら頑張っても実機を構えての検証は難しい、また、施工業者が実際に杭は打てても理論を打ち立てるのは難しい。そこで業者と学者、そして色々な関係者が一緒になって学会を設立し「圧入を学問化し数値化するべきだ」という意見が一致して、2007年2月16日ケンブリッジ大学チャーチルカレッジのモラーセンターに於いて念願の「国際圧入学会・IPA」の設立が叶った。学会の設立に伴って関連する幅広い分野で連携を図り、理論と実践を融合させて圧入工法の優位性を生かした「インプラント工法®」の社会への浸透を促進させる唯一の国際学術組織として活躍している。

 設立後約10年間は年に一回の圧入工学セミナーを開催し、隔年で国際ワークショップの開催及び研究助成賞に関する研究論文集の発刊を通じ、圧入工法やインプラント工法の知名度の向上や研究者・技術者のネットワークの拡大に主眼を置いてきた。そして「圧入工法設計施工指針」の日本語版を纏めて発刊し、続いて英語版・中国版と世界に向けて圧入工法の優位性を広げている。

■ ケンブリッジ大学で開催された、国際圧入学会(IPA)の設立総会(2007年2月16日)

chapter04-14