<事例紹介>
鋼管杭連続壁を用いた路面陥没箇所の復旧
今回のメルマガでは、陥没して片側通行となっていた路面を復旧した事例を紹介します。被災箇所に対して鋼管杭を回転切削圧入することで自立式山留め擁壁を構築しました。

擁壁構築後*
*:(提供:北海道渡島総合振興局)
■道路の被害状況と応急対策

長万部町ホームページ
URL:https://www.town.oshamambe.lg.jp/(閲覧日:20250217)
被災したのは、北海道西部を流れる長万部川沿いの山間部を走る一般道です。この道の奥には湯治の名所として知られる二股温泉があり、地域住民や観光客にとって欠かせない社会インフラとなっています。令和4年8月16日、前線を伴う低気圧が北海道付近を通過し、長万部町には記録的な大雨が降りました。長万部川の水位は2016年以降で最も高くなり、沿岸の道路に土砂の流出を伴う路面の陥没や、ブロック積み護岸の洗掘などの被害をもたらしました。

被災の状況(全景)*


国土交通省国土地理院: 地理院地図を見る,
URL: https://www.gsi.go.jp/(閲覧日:2022年 10月 31日)
路面陥没の応急対策として、親杭横矢板工法 による自立式土留めの構築および、 工事用道路造成のための仮舗装、ガードレールの設置が施されました。また、護岸部に関しては既設ブロック護岸の安定化のため、残存するブロック護岸の下部に捨てコンクリートが打設されました 。

擁壁部および護岸部の応急復旧*
■3つの復旧対策案
本現場の本復旧対策案として「アンカー付き山留め擁壁」「桟橋の設置」「回転切削圧入による自立山留式擁壁」の3つが候補として挙がりました。
一つ目の「アンカー付き山留め擁壁」は、地山に建て込んだH形鋼を支柱にし、PC板などを取り付けて土留め擁壁を構築する復旧案です。この構造形式は、主に壁高8m以下の箇所に適用されています。しかし、本現場では壁高が高いため、杭頭部の変位を抑えるためのグラウンドアンカーを併用するとともに、壁高を下げるために擁壁を河川側に張り出さなければなりませんでした。その際、対岸の斜面を削り、河道を変更する必要がありましたが、対岸の擁壁の構築に大規模な仮設工事が必要なことから、現実的な対策にならないと判断されました。


二つ目は、陥没箇所に対する「桟橋の設置」です。斜面安定化のためにグラウンドアンカー工および法枠工を行い、杭と桁を用いて桟橋を架ける計画です。当該現場では、桟橋設置のために、桟橋の起点・終点の両方に、土を留めるための鋼管杭連続擁壁を道路に対して直角方向に構築する必要がありました。多くの工種が必要な本案は、次に紹介する三つ目の案と比較して工費が割高であり、さらに工期も大幅に延長されるため、不採用となりました。


三つ目の「回転切削圧入による自立山留式擁壁」は、ジャイロプレス工法™を用いて道路と並行して鋼管杭連続擁壁を構築する案です。圧入した杭は擁壁として土圧を支えるだけでなく、斜面の安定化にも寄与するため、法面の安定化工事などの付帯工事を省略できます。また、圧入工法であれば機械が杭の上を自走可能であるため、作業ヤード等を確保するための仮設工事を大幅に削減可能です。当該現場において、技術的課題がないことや、他案と比較して工費は安価で工期が最短であることから、本復旧対策工として採用されました。


■ジャイロプレス工法™の特長
ジャイロプレス工法™は、機械が杭の上を自走しながら、先端に切削爪を付けた鋼管杭を回転圧入して地中に貫入させる工法です。岩盤などの硬質地盤だけでなく、従来工法では困難だった、既存擁壁や鉄筋などの地中障害物を含む地盤に対しても鋼管杭を圧入することができます。鋼管杭の圧入後は、杭間処理として、土砂の流失防止や止水性確保等の目的に応じて、等辺山形鋼や小口径鋼管の圧入など柔軟な対応が可能です。


■本現場におけるジャイロプレス工法™の適用
被災した道路は、地域住民の生活を支える重要な社会インフラです。そのため、連続壁を構築する際にも片側交互通行を確保することが条件となりました。そこで本工事では、作業基地から圧入機付近への鋼管杭の輸送手段としてパイルランナー™を採用しました。応急復旧で設置した親杭横矢板の前面を整地して簡易の軌道を設置し、その上を走行させ鋼管杭を圧入機付近まで輸送しました。また、吊込装置付のジャイロパイラー™を使用することで、別途クレーンを道路上に配置して通行を遮断することなく、鋼管杭の建て込みおよび圧入を可能にしました。

パイルランナー™による運搬の様子*

吊込装置による鋼管杭建て込みの様子*
現場での施工前のボーリング調査では、換算N値750および一軸圧縮強度試験の平均値が60.1MN/m²を示す岩盤層が確認されました。この岩盤層に対しては、設計上約7mの貫入が必要でしたが、回転切削圧入により硬質な岩盤層にも問題なく貫入できました。本工事では、本体工として使用する鋼管杭のほか、杭間処理として土砂の流出を防ぐために小口径鋼管も圧入し、さらに排水工として、小口径鋼管の一部を切削して排水管を取り付けました。

鋼管杭施工の様子*

小口径鋼管施工の様子*


排水管設置の様子*
■圧入工事概要
施工業者 | 伊藤組土建株式会社 株式会社技研施工 |
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使用機材 | ジャイロパイラー™ SP8/GRAL1520 吊込装置 CLC3-1 パイルランナー™ PR-2 |
杭材型式・寸法 | 鋼管杭: 杭径1500mm 板厚19mm 杭長20.5m 5箇所継ぎ 施工本数13本 先端ビット27個 小口径鋼管: 杭径318.5mm 板厚10.3mm 管長 6.5m 施工本数14本 先端ビット6個 |
圧入工工期 | 2023年5月~2024年1月 |
■おわりに

鋼管杭連続壁の施工完了時の状況*

竣工後の自立式土留め式擁壁*
災害復旧工事では、作業スペースの確保が困難な場合や、大規模な仮設桟橋の構築に時間と費用がかかる場合があります。また、近隣住民の安全を守りながら、交通に影響を与えない対策が求められます。今回紹介した構造形式・施工方法であれば、路面の陥没箇所でも片側交互通行を維持しながら擁壁を構築できます。さらに、仮設桟橋などの追加設備が不要なため、費用を削減し工期を短縮することが可能です。
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