GIKEN圧入技術マガジンvol.07

2021.12.7 メールマガジン

 <海外事例紹介> 

仮設工事でハット形鋼矢板を圧入
シンガポール「DTSS」の立坑工事
硬質地盤に対し、26m超の長尺鋼矢板を高精度施工


■圧入工事は世界40以上の国と地域で採用実績

圧入工事は世界40以上の国と地域で採用実績があります。今回は、シンガポール・大深度下水道トンネル(DTSSにおける立坑工事の土留め壁(仮設)で、圧入技術の優位性を活かして長尺のハット形鋼矢板を施工した事例を紹介します。

※国内の排水を地下に張り巡らせた大深度下水道トンネルで回収、輸送するシステムです。集められた排水は沿岸部の処理プラントで浄化され、「NEWater(ニューウォーター)」として再生されます。

◎圧入工法の施工実績がある国・地域(2021年12月現在)

■「仮設」にハット形鋼矢板

日本では広く本設として使われているハット形鋼矢板ですが、シンガポールでは仮設工事での使用が広がってきています。ハット形鋼矢板は1枚当たりの幅が900mmと広いことから施工能率を上げることが可能。他の鋼材と比べてコストを抑制できるケースもあります。

シンガポールの施工現場

■硬質地盤に26~27.5mのハット形鋼矢板を圧入

トンネルボーリングマシンを設置する立坑を造るために土留め壁を構築した本工事。20mを超える掘削深度と隣接構造物の影響により、400mm幅および600mm幅の鋼矢板では設計基準を満たすことができず、900mm幅のハット形鋼矢板のみ対応可能とされました。

工事では「サイレントパイラー® F301-900」による硬質地盤クリア工法でハット形鋼矢板を計124枚圧入し、土留め壁を2カ所(TSSS工区)に構築しました。2627.5mの長尺鋼矢板を硬質地盤に圧入する本件では、高度な貫入技術が求められました。

TS工区の断面図

■他工法では施工精度の維持が困難

本現場を他工法で施工する場合、硬質地盤を先行掘削後に矢板を打設する必要があります。先行掘削時はハット形鋼矢板の断面を網羅できるように先行掘削するため、オーガ径は非常に大きくなります。その先行掘削の精度を維持するのは一般的に難しく、また打設時に矢板は緩まった掘削方向に沿って入っていくため、矢板の施工精度管理も困難となります。矢板が長尺になると、精度管理はますます難しくなります。

■「硬質地盤クリア工法」ならば掘削範囲を最小限に、高精度施工

硬質地盤クリア工法とは、圧入機と連動するパイルオーガで杭先端の直下地盤を掘削し、オーガを引き抜きながら隙間を埋めるように杭を圧入する独自の「芯抜き理論」を用いた工法です。最大N50以上の硬質地盤への圧入を可能とし、従来工法では難しい玉石混じりの砂礫層や岩盤などでも施工できます。

パイルオーガによる掘削はあくまで圧入補助として最小限に抑えます。そのため排土量は少なく、周辺地盤を乱さないことから強い支持力を持った完成杭を急速に構築できます。また、先行掘削は完成杭の継手部をガイドとして行うため、高精度の掘削が可能となります。

以下の動画では芯抜き理論のメカニズムをご覧いただけます。

芯抜き圧入の工程

クサビ効果による玉石の粉砕

■圧入の高精度施工には力点の位置も関係

高精度施工の背景には、圧入力点が杭先端部に近いというサイレントパイラーならではの特長もあります。またハット形鋼矢板対応機は、杭材の中央部1点をつかむのではなく、両端の2点をつかんで圧入するため、圧入パワーを正確かつ確実に伝達します。

以下の図では、硬質地盤クリア工法のハット形鋼矢板の適用範囲を示します。なお本工事では、ハット形鋼矢板50Hに補強板を付けることで設計を満たしました。

■「低振動・低騒音」「高い安全性」も採用の決め手に

現場は学校が隣接しているうえ、付近には公営住宅が建っているため住民生活に影響を与えない工法が必須でした。また鉄道、道路が近いことから高い安全性が求められました。 

サイレントパイラーは低振動、低騒音です。また機械は施工済みの杭をしっかりとつかんでいるため原理上、転倒の危険がありません。施工条件をクリアできるただ一つの工法として採用されました。

 シンガポールでは硬質地盤の案件が増加傾向にあります。また都市開発において地下空間の活用が進められていることから、硬質地盤クリア工法によるハット形鋼矢板の圧入案件は今後、仮設、本設問わず増えていくと考えられています。