あの日、あの時 ~東日本大震災から10年。インプラント工法®の今~

2021.3.11 お知らせ

2011年311日に発生した東日本大震災から本日で10年が経ちました。亡くなられた方々のご冥福をあらためてお祈りいたしますとともに、被災された皆さまに心からお見舞いを申し上げます。また、一日も早く真の復興が実現されるよう心からお祈り申し上げます。

震災は図らずも当社の「インプラント工法」が認知される一つの契機となりました。防災、減災事業をはじめ、各種インフラ事業でも採用が進み、海外でも工法普及が加速しています。あの日から10年。私たちは何を訴えてきたのか。節目のこの年にあらためて振り返ります。

始まりの衛星写真

震災から一カ月後。被災地を映した衛星写真が当社のエンジニアの目を奪いました。あちこちでコンクリートの防潮堤が無残な姿をさらす中、水門を囲むようにして原型を保った細長い沿岸の構造物。「もしかすると、二重鋼矢板の締切り構造物かもしれない。これは調べる必要がある」—。エンジニアは翌月、津波が襲った岩手県山田町織笠を訪れました。

2010年8月8日撮影(水門工事中)

2011年4月1日撮影(被災後)

当社は震災以前より、土木構造物を脆弱で非合理な「フーチング構造」から粘り強く合理的な「インプラント構造®」に転換する「構造革命」を訴えてきました。前者は地盤に置いたコンクリートの重みで外力に抵抗する構造で、前出の防潮堤がこれに当たります。一方、後者は地中深く挿し込んだ杭を地球に支えてもらうことで抵抗する構造で、十分に根入れした鋼矢板の二重締切り構造物はこちらに当たります。違いを例えるならば、歯茎に載せただけの「総入れ歯」と「天然の歯」。インプラント構造の優位性は明白です。当社はこのインプラント構造による災害復旧・事前防災技術を「レスキュー工法®」「ガード工法®」と銘打ち専門誌へ掲載、その必要性を強く訴えていましたが、当時の認知は限られていました。

フーチング構造

インプラント構造®

専門誌に掲載した「レスキュー工法®」「ガード工法®

5月初旬。衛星写真の場所で確認できたのは思った通り、鋼矢板によるインプラント構造の二重締切りでした。エンジニアはこの連続壁を目の当たりにし、小さくうなずきました。津波を正面から受け止めたにもかかわらず、ほぼ無傷で残っていたからです。この二重締切りは「拘束地盤免震」を発揮して地盤沈下を防いだと考えられています。すぐ隣ではコンクリートの堤防が根こそぎ流され、住宅地の残骸が広がっていました。東日本大震災は奇しくもインプラント構造の粘り強さとフーチング構造の脆弱さを“実証”する形となりました。

※インプラント構造の鋼矢板による壁体が直下の地盤を締め切って拘束することで地震動の衝撃を緩和させる免震技術。同時に液状化地盤の流動を抑制して地盤沈下を抑えます。

根こそぎ流されたコンクリートの堤防(手前)と無傷で残った鋼矢板の二重締切工(左奥)

仮設構造物でありながら地震動と津波に耐えた鋼矢板二重締切工

表層の中詰土は流失したが躯体はほぼ無傷

難航した提案活動

8000カ所に送付した冊子とDVD

震災を受け、当社は4月に「国土防災技術本部」を設立。7月には仙台市に「国土防災技術本部 復興支援室」を構え、東北でインプラント工法の提案を本格化しました。

提案活動では手始めに、インプラント工法とその優位性を紹介する冊子、DVDを発注者やコンサルタント、ゼネコンなど約8000カ所に送付。さらに、業界専門誌に6カ月間、12回連続で広告を掲載し、認知度の向上を目指しました。「今こそ『構造革命』『工法革命』の正念場」。誰もがその思いを共有していましたが、工法普及は当初、思うように進みませんでした。


無振動・無騒音、急速・仮設レス・高精度施工に粘り強さ―。復興支援室のメンバーは沿岸部を中心に関係機関を訪ね、インプラント工法の優位性を訴えました。しかし当時、被災地での認知度はほぼゼロ。11月までに約200機関を訪問しましたが、実績重視の発注者やコンサルタントに苦戦することは少なくなく、満足に話を聞いてもらえないこともありました。

国直轄事業の海岸堤防整備でインプラント工法が初採用

奮闘が続く中、先行して工法普及が進んでいた創業地の高知において、インプラント工法の認知度を飛躍的に高める歴史的な工事が始まります。20128月、南海トラフ巨大地震対策として仁ノ海岸(高知市)の堤防改良工事でインプラント工法が採用され、工事がスタートしたのです。それまで国直轄事業において海岸堤防に鋼矢板を入れることは認められていませんでしたが、インプラント工法の優位性が初めてその固い扉を破りました。

仁ノ海岸堤防改良工事(高知県高知市春野町)

圧入完了後

決め手となったのは、圧入技術の優位性と地震、津波に耐えたあの鋼矢板二重締切り工。高知大学と高知県と実施していた防災技術の産学官共同研究も説得力を発揮しました。

国直轄の工事はその後、高知海岸の約14㎞の区間で行われ、202011月までに約4600枚の鋼矢板、8700本の鋼管杭を圧入し、完了しました。インプラント工法は粘り強い構造物を急速に造る工法です。長大な事業でもし別の構造、工法が採用されていたとしたら、おそらく今も工事は完了していなかったに違いありません。

高知海岸長浜地区(高知県高知市)

適用範囲拡大。採用件数1100件超える

東北でも地道な提案活動が次第に実り始めます。月を追うごとに問い合わせが増え、復興支援室の設置から半年も経つと先方から「インプラント構造」という言葉が出るように。全国放送された津波シミュレーターを用いた耐津波実証試験も知名度向上に一役買い、2013年には宮城県仙台市塩釜港の岸壁復旧工事で東北初となる回転切削圧入工法「ジャイロプレス工法®」の採用が実現。被害の大きかった岩手県釜石市や同県大船渡市、宮城県石巻市の沿岸部でも工法採用が続きました。

塩釜港の岸壁復旧工事(宮城県仙台市)

防潮堤の災害復旧工事(岩手県大船渡市)

海岸復旧工事(岩手県釜石市)

復興支援室の設立以来、現在までに東北では防潮堤や岸壁の災害復旧工事を中心として108の工事でインプラント工法が採用されました。当時その優位性をなかなか理解してくれなかった現地の発注者やコンサルタントも、今では「インプラント工法」という言葉を使ってくれるようになり、工法の広まりを感じています。

東北での採用増加は南海トラフ巨大地震や首都直下地震に備える防災、減災対策に波及しています。高速道路の新設や道路の拡幅、港湾施設の拡張など都市機能向上や経済活性化を目的とした全国のインフラ事業でも工法普及が拡大。2020年には国内外で需要が見込まれる地すべり抑止杭工事を初完工するなど、適用範囲の幅も着実に広げています。震災後、インプラント工法の採用件数は増加を続けており、この10年間で1100を超えました。

※当社調べ

鉄道近接での切土擁壁工事 (福岡県北九州市)

岸壁の改修・増深工事 (長崎県長崎市)

浸水対策のための道路嵩上げ工事 (京都府舞鶴市)

地すべり抑止工事 (長崎県東彼杵郡)

福島第一原発の遮水壁

福島第一原発事故が発生した約4か月後の2011年7月、当社は東京電力にインプラント工法による緊急遮水壁の築造計画提案書を提出しました。その内容は、原発の周辺に汚染水の海洋流出と地下水の建屋流入を防ぐ完全遮水壁を構築するものでした。提案の原型となったのは当社が2000年に発表した「完全遮水壁築造工法」。産業廃棄物最終処分場や工場、原発施設を念頭に、地震大国の日本で事故は十分に起きうると考えて提案したものでした。

「日経コンストラクション」
2000年2月25日号に掲出した広告

2011年7月26日に東京電力に提案した「緊急遮水・防波壁工法」

当社は2011年に加え、2013年にも完全遮水壁の提案をしましたが、結局採用されませんでした。ご存じの通り、採用されたのは地下土壌を凍らせて遮水壁を造る手法。しかし、築造に345億円もの巨費を投じ、年間維持費に億単位のコストがかかる凍土壁の費用対効果を疑問視する声は国内外から上がっています。常識で考えて鉄と氷の壁、どちらが安全で確実でしょうか。私たちは今も当社の工法がベストであったと考えています。

「工法革命」「思考革命」

「インプラント工法で世界の建設を変える」。当社のミッションは、不合理な過去の構造、工法を前例主義で踏襲する「旧態建設業界」を、インプラント工法を主軸に据えた最新の科学に基づく「新生建設業界」へと変革することです。環境性、安全性、急速性、経済性、文化性。当社が唱える「建設の五大原則」のどれを取っても新生建設業界の優位性は明らかです。しかし、「工法革命」の挑戦は緒に就いたばかり。まだ道半ばです。

旧態建設業界は変革を「異物」ととらえ、受け入れようとしません。大災害がこれまで漫然と踏襲してきたコンクリートと土による構造物の脆さを証明しても、「想定外」のひと言に逃げて省みない関係者は少なくありません。被災地では震災後、従来工法の延長でコンクリートをより厚く、大きく、重くした防潮堤が造られたところもあります。私たちはまた同じ惨劇が繰り返されることを懸念しています。

当社は現在、インプラント工法で圧入した部材と高強度の繊維で波力を受け止める「インプラントバリア」というまったく新しい素材と構造に基づいた防潮堤を考えています。当社の津波シミュレーターで試験をしていますが、非常に良い成果が出ています。既成概念に囚われない科学に根差した「思考革命」も求められているのです。

科学に基づく「工法革命」は、いつか成し遂げられることは間違いありません。しかし「いつか」では今を生きる人びとの命は守れません。前例主義は技術革新や効率化を妨げ、国を不幸にします。だからこそ、圧入原理の優位性に特化した提案による工法普及の加速や自動化をはじめとした技術開発を通じて“自流独創”の圧入業界の拡大を急がなければなりません。

防潮堤の概念を変える「インプラントバリア™」

グローバルエンジニアリング企業としての責任

3・11を思う時、私たちにはいつも同じ思いが去来します。「もし震災前にインプラント工法が東北に普及していたら、きっと犠牲者を大きく減らすことができたはず」と。

フーチング構造の脆弱性に原発の汚染水問題―。私たちが訴えてきた脅威が次々に現実のものとなっています。近年は河川堤防の決壊が相次ぎ、毎年のように多くの人命が失われています。「堤防の中に土以外のものを入れてはならない」と定める国の「土堤原則」が大きな要因です。当社は以前からこの原則を転換し、「壊れない堤防」、すなわち責任構造物を造る必要性を強く訴えてきました。インプラント工法ならば、これを急速構築することができます。日本の災害史に残るあの日から10年の節目を迎えるに当たり、「国土防災企業」として成長を続けてきた私たちは引き続き声を上げ続ける決意を新たにしているところです。

越水や浸透だけでなく地震にも耐える「インプラントロック堤防 ™」

日本が過去に経験し、現在抱えている課題は世界の課題でもあります。いつまでも変わらない旧態建設業界も、日本だけなく海外各国に共通する問題です。災害大国と言われ、先進国の建設課題に直面するわが国で培った技研の技術と経験を、これからは「グローバルエンジニアリング企業」として海外諸国にも伝えていかなければなりません。私たちの提案でしか解決できない建設課題が世界には山積しています。「インプラント工法で世界の建設を変える」。それは世界の人びとの暮らしや積み重ねてきた文化を守るとともに、不合理な建設業界に新しい科学の風を吹き込むため、必ず成し遂げなければならない使命なのです。